おれは何かの研修に参加してたと思います。でもって休憩中、横断歩道を急いで渡りました。すると少し離れたところから「一時不停止……向かいます」と聞こえてきました。
嫌な予感は当たっていて、程なく婦警さんに呼び止められます。しっかりしていそうな印象の若くてきれいな方でした。
後ろを向いてみると確かに「止まれ」の看板があって、そこを足早に通過したとなれば咎められても致し方なかったでしょう。左右は見たぞ、と一瞬文句を垂れたくなりましたが、警官の前で言い訳をするようなこともできず、検挙に応じました。
身分証明書を求められたのですが、おれはすぐに適したものを出すことができませんでした。汚いカバンの中をひっくり返して二人で保険証を探します。財布の中にあると思ったカードはないし、婦警さんに文庫本の帯を取り上げられ、保険証セットの袋をみつけてその中をほじくり返しても目的ではない証書ばっかり取り出してしまい、やっとの思いで袋の底に残っていた保険証を見つけることができました。
それで本人確認は済んだので、あとは切符を切られるだけでしょう。しかし婦警さんは「お兄さんの作ってる音楽」の話をしてきたのです。さっき鞄を漁ったとき何か見つけたにちがいありません。みると、彼女はおれの作った曲のメロ譜や歌詞の刷られたプリントを右手に持って、その内容を読み込んでいるようでした。
恥ずかしいので早く立ち去りたいと思いつつも「ｿｯｽﾈｴﾍﾍ」としか言えず、赤面を悟られないかとヒヤヒヤともしながら待っていると、婦警さんは「でもこの曲……」と漏らしました。
続きを促すと婦警さんは面を上げて「歌詞にパンチないですねーwww」と言い放ちました。
「ウケようとしてるんでしょ？だったらもっと惹きつける感じにしないと」
そう言ったきり、婦警さんは切符も何も手渡さないまま白箱付きの自転車に乗ってどこかへ去って行きました。

なんだあいつ。

おしり。

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